ほんのちょっとしたこと

執筆:医療法人松丸会 しまだ小児科 院長 島田 康 先生
(2006年執筆)

「麻疹」をどのように読みますか?「ましん」ですね。でも、私たちにとっては、当たり前のことでも、保護者の方にとっては、「ましん」と「ふうしん」は、区別しにくいようです。小児科医として大先輩である、熊本の高名な先生は、ある会合で、「保護者の方には麻疹と風疹の区別は難しいので、当院では、麻疹(ましん)という言葉は使わず、すべて『はしか』にしている」と発言されました。

私は、それまで漫然と「麻疹、つまりはしかですね」と言っていましたので、この発言にあっと驚き、またさすがと感じまして、この会合の後は院内での用語として「麻疹(ましん)」は使わず、「はしか」とすることにしました。我々医療機関にとっては、なんら苦もないことでも、一般の方には、決してそうではないこともたくさんありそうです。

「医療機関には摩詞不思議が多い」のかもしれません。予防接種に関してよくある質問に接種間隔があります。「今日、四種混合(四混)したので、次はいつ出来ますか?」、単純な設定の簡単な質問なので、ただ答えるだけにとどまり、あまり気にとめていませんでした。これも「麻疹(ましん)と風疹(はしか)」の関係と同じく、区別しにくいことのひとつと言えそうです。

『予防接種と子どもの健康』には、接種間隔は書いてあるでしょう、とは医療機関側の考えです。それよりも医療機関側が、保護者の方は同一のワクチンと他のワクチンの接種間隔を混同することがあると認識すればよいことです。まだまだ、予防接種以外でも、これと同様の「ちょっとしたこと」はあると考えます。でもほんのちょっとで済むのか、大事に至るのかは、起きてみないと分かりません。善意であったにしても「ほんのちょっと」したことで、保護者の方に誤解を与えてしまっていたということを後で聞いてこちらがビックリしたことがあります。日頃から保護者の方の言動に「ほんのちょっと」でもよいから気をつけることが大切ですね。