B型肝炎ワクチンQ&A

専門医監修の「B型肝炎ワクチンQ&A」には一部、電子化された添付文書外の情報を含みます。
従いまして、本Q&Aの利用によって生じた結果については、責任を負いかねますのでご了承ください。
ご不明な点やその他のご質問は、くすり相談窓口または担当MRまでお問い合わせをお願いいたします。

【例】

  • ワクチンの接種スケジュールを逸脱してしまった場合の対応について
  • 国内で使用されるワクチンの互換性について
  • ワクチンの追加接種について

【くすり相談窓口】
電話番号:0120-345-724(受付時間:9:00~17:00 ※土日・祝日・当社休業日を除く)

B型肝炎の病態、接種スケジュールとワクチンの効果

Q1:B型肝炎とはどのような疾患ですか?

A

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(以下、HBV)が血液や体液を介して感染する疾患です。出産時や乳幼児期に感染すると9割以上が持続感染に移行し、HBV持続感染者はその自然経過において慢性肝炎から肝硬変に進展することがあります1)。B型肝炎の制圧には、HBVキャリアの母親から新生児への垂直感染を防ぐためにワクチン接種が不可欠です。

世界保健機関(以下、WHO)の統計によると、毎年約78万人が、肝硬変および肝がんなどのB型肝炎に起因する疾病により死亡すると推定されています2)。HBV感染者はアジア、アフリカに多く、世界人口の40%以上は高侵淫感染地域に住んでいるといわれています。日本では100〜130万人が持続感染していると推定されています。

B型肝炎は、成人がHBVに感染したときに一過性に発症する急性肝炎と、HBV持続感染者に起きやすい慢性肝炎に大別されます。B型急性肝炎においては、感染後1〜6カ月の潜伏期を経て全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、褐色尿、黄疸などがみられることがあります。その後、大部分の人ではHBVは排除され、慢性化しません。一方、慢性肝炎では急性肝炎にみられる症状は出現しにくく、自覚症状はほとんどありません。しかし、急性増悪すると、急性肝炎と同様の症状が出現することがあります。母子感染で乳幼児期にHBVに感染した人は、出生後数年〜数十年は発症せず、一般的には10〜30代で一過性の強い肝炎を発症した後、HBe抗体へ血清転換(セロコンバージョン)を起こして非活動性キャリアになります(図)。

思春期以降に一過性の肝炎を起こした後は、そのまま肝機能が安定した状態になる人が80〜90%、残りの10〜20%の人が慢性肝炎に移行し、その中から肝硬変、肝がんになる人が出てきます3)

図 HBV感染後の経過

  • 予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会B型肝炎ワクチン作業チーム. B型肝炎ワクチン作業チーム報告書. 厚生労働省, 2011. p.1.

文献

  • 1) 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「B型肝炎治療ガイドライン(第3.4版)」2021年5月,P1,3
    https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html(2022年6月参照)
  • 2) WHOウェブサイト. Immunization, Vaccines and Biologicals: Hepatitis B
    (https://www.who.int/immunization/diseases/hepatitisB/en/)2020年9月現在
  • 3) 国立国際医療研究センター 肝炎情報センターウェブサイト. B型肝炎
    (http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/b_gata.html)2022年6月現在

Q2:保育施設などの集団生活の場や家族内でも感染しますか?

A

過去、身近なHBVキャリアからの小児への水平感染が確認されています。

2002年の佐賀県保育所における25人の集団感染のケースでは、HBV無症候性キャリアの職員からの感染などが疑われましたが、個々の感染源と感染経路は特定できませんでした1)

また、日本では母子感染防止に力を入れ大きな成果を上げましたが、父子感染に関しては予防処置を行わない場合、父親がキャリアだと約24%に感染がみられ、うち約9%がキャリア化したという報告があります2)

さらに、若年成人を中心に2005年時点で年間約6,000人の新規感染者がいると推計されています3)

近年、唾液、尿、汗、涙などの体液が感染源になることが分かってきており4)、B型肝炎は母子感染予防だけでは制御できないという課題があったため、日本でも2016年10月よりB型肝炎ワクチンの定期接種が開始され、小児期の水平感染を視野に入れた感染防止策が取られています。

文献

  • 1) 国立感染症研究所. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版). 厚生労働省, 2010. p.10.
  • 2) 広田俊子, 他. 肝臓 1987; 28(4): 427-32.
  • 3) 森島恒雄. 厚生労働科学研究費補助金 B型肝炎の母子感染および水平感染の把握とワクチン戦略の再構築に関する研究. 厚生労働省, 2012. p.1.
  • 4) Komatsu H, et al. J Infect Dis 2012; 206(4): 478-85.

Q3:B型肝炎ワクチンの接種スケジュールを教えてください。

A

①B型肝炎の一般的な予防接種スケジュール

<定期接種:1歳未満の乳児>

2016年10月1日から予防接種法に基づく定期接種が開始されました。

対象年齢は1歳に至るまでの間にある者(出生後から生後12カ月まで)とされています。

ただし、 HBs抗原陽性の者の胎内または産道においてHBVに感染する恐れのある者であって、抗HBs人免疫グロブリン(以下、HBIG)の投与に併せてB型肝炎ワクチンの接種を受けたことのある者は、定期接種の対象者から除かれます。

標準的なB型肝炎ワクチンの接種期間としては、生後2カ月に達した時から生後9カ月に至るまでとし、0.25mLを27日以上の間隔で2回皮下に接種した後、1回目の接種から139日以上の間隔をおいて3回目を皮下に注射します(図1)。

また、長期療養等で定期接種期間中に受けることができなかった者は、他のワクチンと同様に治癒後2年間は定期接種として接種が可能ですが、予防接種の開始時に10歳以上である小児は、1回につき0.5mLを筋肉内または皮下に注射することになります。

  • ※ 母親がHBs抗原陽性で母子感染予防対象の乳児は定期接種ではなく、②に示す母子感染予防スケジュールを初回より全シリーズ終了まで健康保険で接種します。

図1 B型肝炎ワクチンの定期接種スケジュール

  • 一般社団法人 日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021.p.114.より引用改変

<任意接種:医療従事者、1歳以上の小児等>

通常、0.5mLを4週間隔で2回、さらに1回目の接種から20〜24週後に3回目の計3回を皮下または筋肉内に接種します(図2)。ただし、10歳未満の小児に対しては、0.25mLずつを同様の接種間隔で皮下接種します。HBs抗体が獲得されていない場合(HBs抗体が10mIU/mL未満)には、さらにあと 1 シリーズ(3回)を追加接種します。

図2 B型肝炎ワクチンの任意接種スケジュール

  • 一般社団法人 日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021.p.114.より引用改変

この接種スケジュールを行う対象として、HBVキャリアの家族や血液・体液への曝露機会の多い職業(医療関係者、介護・保育関係者など)、乳児期から保育所や施設などで集団生活する小児、身体接触の多いスポーツ(相撲、ボクシング、レスリングなど)の選手などが挙げられます。成人で初めてB型肝炎ワクチンを接種する人は、2回接種では抗体の上がり方が3回接種に比べて十分ではありません。3回接種ではブースター効果で抗体が急激に上昇するので、医療関係者、海外への長期滞在者、長期にわたって抗体や予防効果を持続させる必要がある人は、必ず3回接種をするようにしてください。

②母子感染予防スケジュール

HBs抗原陽性の母親から生まれた乳児に対しては、通常、生後12時間以内を目安に0.25mLを皮下接種し、同時にHBIG 1mL(200単位)を2カ所に分けて筋肉注射します。さらに初回接種の1カ月後および6カ月後の2回、同様に接種します(健康保険適用)(図3)。もし、初回接種が生後12時間を過ぎた場合でも、できるだけ早期に行うことが重要です。

日本小児科学会が出している「B型肝炎ウイルス母子感染予防のための新しい指針」(2013年12月)によると、生後9〜12カ月を目安に検査しHBs抗原が陰性で、かつHBs抗体が10mIU/mL未満の場合には、B型肝炎ワクチンをもう1シリーズ(3回)接種することとされています。

  • ※ 母子感染予防スケジュールの対象となる乳児は、①に示す定期接種の対象とはならないので注意してください。

図3 母子感染予防の接種スケジュール

  • 日本小児科学会. B型肝炎ウイルス母子感染予防のための新しい指針. 2013.より引用改変

③汚染事故時の発症予防スケジュール

HBVに汚染された血液等による汚染事故の場合、発症予防のためにHBIGとB型肝炎ワクチンを併用します。その際の保険適用についてはQ12を、具体的な対応についてはQ19をご参照ください。

B型肝炎ワクチンの接種スケジュールは、通常10歳以上では0.5mLを1回、事故発生後7日以内に皮下または筋肉内に接種します。さらに、0.5mLずつを初回接種の1カ月後および3〜6カ月後の2回、同様の用法で接種します(図4)。なお、10歳未満の小児に対しては、0.25mLずつを同様の投与間隔で皮下に接種します(労災保険、健康保険適用)。

HBs抗体が獲得されていない場合(HBs抗体が10mIU/mL未満)には、さらにあと1シリーズ(3回)を追加接種します。

図4 汚染事故時の発症予防の接種スケジュール

  • 一般社団法人 日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021.p.115.より引用改変

Q4:ワクチンの効果はどのくらい持続しますか?

A

ワクチン接種による抗体獲得率は、40歳までの接種では95%と報告されていますが、接種を受ける方の体質や体調によっては免疫ができない場合があります。また、ワクチン3回接種後の感染防御効果は20年以上続くと考えられています1)

国産のB型肝炎ワクチンを3回接種した48例を対象に、抗体価の持続を調査した報告があります。ワクチン3回接種4週後の抗体価が高い人(高反応者、 C.I.=50以上)7名、中程度の人(中反応者、C.I.=10〜49)29名、低い人(低反応者、C.I.=2.0〜9.9)12名の3群に分け、3回接種38カ月後の抗体価を調べています。3回接種後、38カ月時点の分布は、高反応者が0名、中反応者が4名、および低反応者が22名となり、さらに、3回接種4週後での低反応者12名を含む22名がC.I.=2.0未満と再陰転化していました。3回接種38カ月後の陰転化率は45.8%でした2)

また、HBe抗原陽性のHBVキャリア妊婦からの母子感染防止を目的に、国産のB型肝炎ワクチンを生後2、3、5カ月に3回接種した場合は、少なくとも13歳までの追加接種は必要ないという研究報告があります3)

  • ※ cut off indexの略。測定値をcut off値で割り算出。2.0以上を陽性とした。

文献

  • 1) 厚生労働省Webサイト. B型肝炎ワクチンに関するQ&A. p.1.
    (https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000137554.pdf)2022年6月現在
  • 2) 藤瀬清隆, 他. 感染症学雑誌 1995; 69(2): 164-9.
  • 3) 角田知之, 他. 肝臓 2011; 52(7): 491-3.

Q5:HBs抗体価を測定する場合の検査法とその陽性判定基準、測定タイミングについて教えてください。

A

電子化された添付文書の「7. 用法・用量に関連する注意」には、一般的注意として「B型肝炎ウイルスへの曝露による感染及び発症の可能性が高い者又はB型肝炎ウイルスに感染すると重症化するおそれがある者には、本剤の3回目接種1〜2箇月後を目途に抗体検査を行い、HBs抗体が獲得されていない場合には追加接種を考慮すること」と記載されています。ワクチン接種にあたっては電子化された添付文書をご参照ください。

ビームゲン®注0.25mL、ビームゲン®注0.25mL 電子化された添付文書

HBs抗体価の測定法にはPHA法、CLIA法などがあります。

B型肝炎ワクチンは、3回接種で基礎免疫になります。初回接種や2回接種の4週後に抗体価を測定した場合、陽性になる場合もありますが、その抗体価は低く、3回目の接種を行うことでさらなる高い抗体価の上昇が期待できます。3回接種における乳児や年長児の抗体獲得率は良好であるため、一般的には抗体検査は必要ありません1)。医療関係者、透析患者、基礎疾患に膠原病や血液・悪性腫瘍などがある、または臓器移植後といった理由で免疫抑制状態にある患児などは、ワクチン3回接種後1〜2カ月をめどにHBs抗体価を測定します。HBs抗原陽性の母親から出生した乳児に対しては、生後すぐに感染予防処置を行った後、生後9〜12カ月をめどにHBs抗体検査を実施します。CLIA法では感染防止に必要な最低の抗体価は10mIU/mL(表)、感染防止が十分可能な抗体価は100mIU/mLとされています2)

表 B型肝炎ワクチン接種後の獲得HBs抗体価の目安

抗体測定法 免疫獲得の目安
PHA法(受身赤血球凝集法) 8倍3)
CLIA法(化学発光免疫測定法) 10mIU/mL4)
  • 文献3),4)より作表

文献

  • 1) 乾あやの, 他. 小児内科 2013; 45: 589-90.
  • 2) 渡辺彰, 他. そこが知りたい!成人の予防接種パーフェクトガイド. 診断と治療社, 2014. p.22.
  • 3) 小島秀男, 他. 治療 1990; 72(10): 94-6.
  • 4) 一般社団法人 日本環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン第3版. 日本環境感染学会誌 2020; 35(SupplⅡ): S1-4.

Q6:3回接種しても抗体を獲得できなかった場合は追加接種すべきですか?
追加接種の基準を教えてください。

A

1シリーズ(3回)のワクチン接種をしても抗体獲得できなかった場合、もう1シリーズの再接種が推奨されます。2シリーズでも抗体陽性化がみられなかった場合は、それ以上の追加接種での陽性化率は低くなるため、「ワクチン不応者」として血液・体液曝露の際に厳重な対応と経過措置を行います1)

ワクチン3回接種後に抗体を獲得し、その38カ月後(3年2カ月後)に抗体が陰性化した12名に対して1回の追加接種をした結果、全例が再び陽性となり、その平均抗体価は3回接種と同等以上になったという報告があります2)

医療関係者のように、患者さんと接触するようなハイリスク者においては、本人が自覚しない感染事故があるかもしれません。このような状況を勘案すると、医療関係者などのハイリスク者は定期的に追加接種を行い、常に抗体価を維持しておく意義はあると考えられます。

一方、米国では追加接種は必要ないとされており、日本と米国で見解の相違がみられています。現実的には、各医療機関の判断に委ねられています。

文献

  • 1) 一般社団法人 日本環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン第3版. 日本環境感染学会誌 2020; 35(SupplⅡ): S1-4.
  • 2) 藤瀬清隆, 他. 感染症学雑誌 1995; 69(2): 164-9.

Q7:遺伝子型C由来のワクチンでも遺伝子型AのHBVを予防できますか?

A

2015年度の厚生労働省予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会では、仮に定期接種として、国民に対し広く接種機会を提供する場合、全出生者を対象に予防接種を実施し、その対象年齢は出生後から生後12カ月までとする考え方が示されました。標準的には生後2カ月からB型肝炎ワクチン接種を実施し、使用するワクチン製剤は遺伝子型(ジェノタイプ)A型、C型どちらのウイルス由来の製剤でも選択できるとしています。

日本でも近年、成人になって感染すると慢性化しやすいといわれている遺伝子型AのHBVの成人感染者が急増しており1)、その予防対策が緊急課題となっています。最近の研究によると、遺伝子型AのHBVキャリア妊婦に対する遺伝子型C由来の抗原を用いたワクチンの母子感染予防効果が報告されており2)、遺伝子型C由来の国産B型肝炎ワクチンは、血清型や遺伝子型が異なるHBVについても効果があると考えられています。

HBVの遺伝子型には、AからJまで少なくとも10種の型があります(表)。日本全国13施設の共同研究により解析可能だった720例のHBV遺伝子型の分布状況は、HBV/Cが約85%、HBV/Bが約12%、HBV/Aが約2%でした。このうち遺伝子型AはAa(アフリカ型)とAe(欧米型)に分かれますが、1995年以降、日本ではまれだった欧米型HBV/Aeの割合が増加しています3)

HBV/AによるB型急性肝炎の肝障害の程度はHBV/Cと比較して軽いのですが、HBs抗原消失までの期間が長く、HBV/Aの慢性化率はHBV/Cと比較して高くなる傾向にあることが報告されています4)

HBVには4種類の血清型(主要サブタイプadr 、adw、ayr、ayw)がありますが、異なる血清型で交差免疫が成立することがチンパンジーを用いた動物実験などで観察されており、国産B型肝炎ワクチンは、異なる血清型や遺伝子型が異なるHBVにも効果があると考えられています5)

表 HBVジェノタイプの分布と特徴

Genotype Sub genotype 地域 特徴
A Aa(A1) アフリカ 小児期の水平感染が多い
Ae(A2) 欧米 遷延化、慢性化率が高い
B Ba(B2) アジア 小児の肝がんが多い
Bj(B1) 日本 劇症化しやすい
C 日本・韓国・中国・東南アジア 肝病変が進展しやすく予後不良
D 南欧・ロシア・中東・インド 肝病変が進展しやすく予後不良
E 西アフリカ
F 中南米
G 北米・フランス・ドイツ Genotype Aとの重複感染が多い
H 中南米
I ベトナム・ラオス・中国 Cの亜型と考えられている
J 日本(沖縄)
  • 山田典栄. 感染症内科 2013;1(4):361-6.

文献

  • 1) 予防接種部会 ワクチン評価に関する小委員会B型肝炎ワクチン作業チーム. B型肝炎ワクチン作業チーム報告書. 厚生労働省, 2011. p.3.
  • 2) 小松陽樹, 他. 肝臓 2015; 56(12): 675-7.
  • 3) 新海登, 他. 感染症 2011; 41(4): 127-33.
  • 4) 四柳宏, 他. 臨床消化器内科 2009; 24(6): 661-5.
  • 5) 国立感染症研究所. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版). 厚生労働省, 2010. p.6.

Q8:妊婦、授乳婦への接種はどのようにすればよいでしょうか?

A

電子化された添付文書の「9. 特定の背景を有する者に関する注意」には、「9.5 妊婦:妊婦又は妊娠している可能性のある女性には予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。[9.1.6参照]」と記載されています。ワクチン接種にあたっては電子化された添付文書をご参照ください。

ビームゲン®注0.25mL、ビームゲン®注0.25mL 電子化された添付文書
1. 妊婦への接種について
B型肝炎ワクチンの電子化された添付文書では、妊娠期間を通じて接種しないことを原則としていますが、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合には、主治医の判断で接種することができます。接種の判断に際しては、積極的に予防した方がよいと考える医師と、B型肝炎感染リスクがあり、それを防ぎたいと考える妊婦の意見が一致したときにのみ、接種することが望ましいと考えられます。
もし3回の基礎免疫中に妊娠していることが判明したら、その時点でいったん接種を中止して、出産後に行う方がよいでしょう。
2. 授乳婦への接種について
日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会作成の『産婦人科診療ガイドライン 産科編 2020』では、「授乳婦に生ワクチンまたは不活化ワクチンを与えても母乳の安全性に影響を与えない」1)と記載されています。産科医によって判断は分かれると思いますが、一般的に出産3カ月を過ぎた頃から出産前の体力に戻ると考えられているので、有効性の観点から間隔を考慮すれば、産後数カ月経過してから接種することが望まれます。

文献

  • 1) 日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2020. p.52-3.

Q9:アレルギーや基礎疾患をもつ人への接種は可能ですか?

A

予防接種の接種液の成分によって、アナフィラキシーを起こしたことが明らかな人は接種不適当に該当しますが、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、じんましんなど、アレルギー体質があるだけの場合は接種可能です。

接種不適当者は、①明らかな発熱をきたしている人、②重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな人、③B型肝炎ワクチンの成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな人、④その他、予防接種を行うことが不適当な状態にある人です1)

ワクチンを接種してはならないと定められているのは①〜④に該当する人ですが、③以外はその状態が解消した後の接種を考慮します。

なお、B型肝炎ワクチン接種を受けた後30分間は急な副反応が起こることがありますので、医療機関に残り、様子を観察することが望ましいでしょう。接種当日の入浴は差し支えありませんが、注射した部位をこすらないようにします。また、接種当日は接種部位を清潔にして、いつもどおりの生活をして構いませんが、激しい運動や大量の飲酒は避けてください。万一、高熱やけいれんなどの異常な症状が出現したら、速やかに医師の診察を受けてください。

文献

  • 1) 組換え沈降B型肝炎ワクチン(ビームゲン®注0.25mL・0.5mL)電子化された添付文書. 2020年10月改訂(第2版).

Q10:免疫抑制状態(ステロイドやその他の免疫抑制剤を使用中の人、透析患者など)にある人や、インターフェロン、抗がん剤、抗生物質などを使用している人への接種について、その可否、接種上の注意について教えてください。

A

免疫抑制状態の人へB型肝炎ワクチンの接種は可能ですが、抗体産生が十分ではない可能性があります。インターフェロン、抗がん剤、抗生物質を使用中の人も接種可能と考えられますが、薬剤を使用する背景となる原疾患の状態(病状が落ち着いているか、熱はないか、など)を予診により確認する必要があります。このような人に接種する場合、効果が減弱する可能性があることをあらかじめ説明しておくのがよいと考えられます。

現行のB型肝炎ワクチンは、遺伝子組換えワクチンで不活化ワクチンに分類されるため、被接種者の免疫状態にかかわらず、ワクチンウイルスが体内で増殖することはありません。

米国CDCは慢性肝疾患、腎不全、透析患者、糖尿病などの基礎疾患を有する人でB型肝炎ワクチン接種歴や罹患歴の証明ができない人に対して接種勧奨を行っています1)。しかし、免疫抑制剤は、細胞性免疫や液性免疫(抗体産生)を抑制するため、ワクチン接種による免疫獲得が不良となる可能性があります。抗がん剤についても同様の考え方になります。

なお、インターフェロンの電子化された添付文書においては、インターフェロンとB型肝炎ワクチンとの相互作用の報告はないようです。抗生物質や抗結核薬、感冒薬の服用も、ワクチン接種自体に大きな影響を与えないと考えられます。ただし、各種薬剤を服用中の場合、その時点で患者さんがワクチン接種に適した状態であるか(病状が落ち着いているか、熱がないか、など)を予診により確認する必要はあります。

文献

  • 1) 米国疾病予防管理センター(CDC)ウェブサイト. Recommended Adult Immunization Schedule for ages 19 years or older, United States, 2020
    (https://www.cdc.gov/vaccines/schedules/downloads/adult/adult-combined-schedule.pdf)2020年9月現在

Q11:接種間隔が規定どおりできなかった場合はどのようにしたらよいですか?

A

B型肝炎ワクチンは3回接種することが基本となります1)

接種スケジュールどおりにできなかった場合でも原則としてやり直すことはせず、トータルとして規定の回数で行うように接種します。具体的には、以下の4つのケースが考えられます。

1. 2回目が1回目から4週間を超えた場合
気付いた時点で速やかに2回目を接種します。その後、規定どおり3回目を接種すれば基礎免疫が得られると考えられます。
2. 2回目が1回目から4週間未満の場合(27日未満で接種した場合は定期接種としては認められなくなります)
この間隔で接種した場合の抗体獲得に関するデータはありませんが、やり直さず、引き続き規定どおりに3回目を接種します。接種間隔が極端に短い場合は、抗体が産生されないことが想定されますので、再接種を検討してください。
3. 3回目が遅れた場合(1回目から24週〈6カ月〉以上経った場合)
3回目接種は、規定では1回目の接種から20〜24週後、あるいは3〜6カ月後に接種することになっていますが、それ以上経ってしまった場合は、気づいた時点ですぐに3回目を接種します。6カ月以上経った場合、12カ月までの方が抗体価の上昇がよいとの成績もありますので2)、速やかに3回目を接種します。なお、定期接種の場合は、3回目は1回目から139日以上空けて接種しますが、1歳以上になると定期接種として受けることができなくなります。
4. 3回目が短くなった場合
B型肝炎ワクチンを0・1・3カ月と0・1・6カ月で接種した群で抗体陽転率と平均抗体価を調査したデータがあります。抗体陽転率に差は認められませんが、平均抗体価は前者(0・1・3カ月で接種した群)が有意に低値であったとする成績があります3)。定期接種では1回目と3回目は139日以上空けることが規定されています。

文献

  • 1) 一般社団法人 日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021. p.120.
  • 2) Jilg W, et al. J Med Virol 1985; 17(3): 249-54.
  • 3) 磯部親則, 他. Progress in Medicine 1991; 11(11): 3002-6.

Q12:B型肝炎ワクチンは「健保等一部限定適用」となっていますが、具体的に教えてください。

A

1. B型肝炎の予防
ハイリスク者が感染前にあらかじめワクチン接種を行い、HBs抗体を獲得することが目的です。予防を目的とした使用法であり、3回接種いずれも保険適用とならず、全額自己負担です。ただし、血友病患者にB型肝炎の予防の目的で使用した場合は、保険給付の対象となります。
2. HBV母子感染の予防
HBs抗原陽性の妊婦から生まれた新生児は分娩の際にB型肝炎に感染する可能性が高いため、その感染を阻止するためにB型肝炎ワクチンを使用する方法です。HBIG、B型肝炎ワクチンを生後12時間以内を目安に1回、さらに1回目接種の1カ月後および6カ月後に接種する「B型肝炎母子感染防止対策」が行われています。この際に使用されるB型肝炎ワクチンは健康保険適用となります。
3. HBs抗原陽性かつHBe抗原陽性の血液による事故後のB型肝炎発症予防
HBVに汚染された血液等による汚染事故の場合、発症阻止のためにHBIGとB型肝炎ワクチンを併用します。
このような場合の保険適用については、業務上であれば労災保険が、業務外であると健康保険等が適用となります。
なお、ワクチンが保険適用となるのは、以前は汚染源がHBs抗原陽性かつHBe抗原陽性の血液とされていましたが、2004年4月からHBe抗原が陰性であってもHBs抗原が陽性であれば、労災保険の適用となる旨の通知が出されました1)。ただし、健康保険の適用は汚染源がHBs抗原陽性かつHBe抗原陽性の血液の場合に限られます。
  • ※ なお、2016年10月より1歳未満の小児を対象に定期の予防接種となっております。

文献

  • 1) 厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知, 基労補発第0330001号, 平成16年3月30日

Q13:ワクチン接種時に注意すべきことはありますか?

A

国内で承認されているB型肝炎ワクチンは、有効成分であるHBs抗原をアジュバント(アルミニウム塩)に吸着させた沈降不活化ワクチンです1)。いずれも特に沈降しやすいので、使用直前に薬液をよく振り混ぜてから吸引(バイアル製剤)あるいは使用(シリンジ製剤)することが重要です。

また、保存剤を含み分割接種が可能なビームゲン®注0.5mLの電子化された添付文書には、「14.適用上の注意」として「一度針をさしたものは、遮光して、10℃以下に凍結を避けて保存し、24時間以内に使用すること」と記載されています2)。いったん針を刺したバイアルの残液を24時間以内に使用する際には、特に清潔に操作するよう注意してください。また、異なるバイアルの残液を集めて規定量を吸引することは、万が一、副反応等が発現した場合に原因となるロットの特定が困難であることや、清潔操作の観点から勧められません。

文献

  • 1) 国立感染症研究所. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版). 厚生労働省, 2010. p.16.
  • 2) 組換え沈降B型肝炎ワクチン(ビームゲン®注0.25mL・0.5mL)電子化された添付文書. 2020年10月改訂(第2版).

Q14:3回接種において、異なるメーカーのワクチンを接種しても互換性はありますか?

A

国内には2種類の組換え沈降B型肝炎ワクチン(酵母由来)が製造販売されています(2022年6月現在)。この2種類のワクチンの有効成分であるHBs抗原量、効能・効果、用法・用量、接種スケジュールは同じです。

国内の2種類の組換え沈降B型肝炎ワクチンについては、厚生労働科学研究班(研究代表者:廣田良夫)で小児を対象に互換性に関する検討が実施され、互換性が確認されています1)

また、海外渡航の場合、初回の2回を国内で接種し、3回目は渡航先の海外製ワクチンを接種する場合も考えられますが、国内のワクチンと海外のワクチンにおいて互換性を調べた報告は、現在のところありません。確実に抗体が獲得されているかについては、抗体検査で確認します。

文献

  • 1) 廣田良夫. 厚生労働行政推進調査事業費補助金ワクチンの有効性・安全性評価とVPD対策への適用に関する分析疫学研究. 厚生労働省, 2016. p.1-13.

Q15:ワクチン中に添加されているチメロサールは安全ですか?

A

チメロサールは、不活化ワクチンの保存剤として用いられているエチル水銀化合物で、細菌や真菌などの微生物の汚染からワクチンを守るために不活化ワクチンに使用されています。半減期は1週間未満と短く、腸から盛んに排出されます1)

かつて、チメロサールと神経疾患(自閉症)との関連が指摘されましたが、米国医学協会(IOM)は2004年に「チメロサールと自閉症の関連を否定する」旨の見解を出し2)、WHOでは2006年の委員会にて、ワクチン中のチメロサールが乳児、小児および成人に毒性を有するというエビデンスはないと強調しました3)。その後、2012年の委員会でも確認がなされています4)

国内でも2009年に(独)医薬品医療機器総合機構で諸外国における評価、国内における関連症例報告の状況、関連学会の見解等を踏まえて検討が行われ、チメロサール含有ワクチンと自閉症等との因果関係を示す根拠は得られていないと判断されました。臨床的には、局所における過敏反応などが時にみられるものの、自閉症等との因果関係に関する評価や他の規制当局における対応状況等を鑑みると、特に複数回接種用のワクチンにおいては、チメロサールを添加しない場合の病原体汚染によるリスクに比較するとチメロサールにより起こるかもしれない有害反応のリスクは、妊婦、小児等を含めて相当に低いものと考えられるとされました。一方で、予防的観点から日本でも、チメロサールについては除去ないし減量の方向で努力が続けられており、例えば国産のインフルエンザワクチンでは、チメロサールの含量は2000年代前半には従来の10分の1以下に大幅に減量されています。ワクチンのチメロサール除去については、国民の水銀への曝露量を低減させる観点から望ましいと考えられるため、引き続きチメロサールの除去・低減に向けた努力を続けることが適切であるとされています3)

文献

  • 1) WHOウェブサイト. Weekly epidemiological record 2002; 77(47): 389-94
    (https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/232032/WER7747_389-394.PDF)2022年6月現在
  • 2) Institute of Medicine. Immunization Safety Review: Vaccines and Autism, 2014. p.65.
  • 3) 厚生労働省ウェブサイト. 平成21年度 第3回薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会安全対策調査会 調査結果報告書(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/11/dl/s1106-11m08.pdf)2022年6月現在
  • 4) WHOウェブサイト. Global Vaccine Safety: Thiomersal in vaccines(https://www.who.int/groups/global-advisory-committee-on-vaccine-safety/topics/thiomersal-and-vaccines/thiomersal-vaccines)2022年6月現在

Q16:B型肝炎ワクチン定期接種化の経緯について教えてください。

A

2016年2月の厚生科学審議会(第8回予防接種・ワクチン分科会)において、B型肝炎ワクチンを2016年10月1日より定期の予防接種とすることが了承され、2016年6月には定期の予防接種の対象疾患として、B型肝炎をA類疾病に追加することとなりました1)

国民に対し広く接種機会を提供する場合、接種年齢が若いほど良好な免疫応答が得られることや、小児期における水平感染を予防する目的等から、全出生者を対象に予防接種を実施し、その対象年齢は1歳に至るまでの間にある者(出生後から生後12カ月まで)とされました2)

ただし、HBs抗原陽性の妊婦から生まれて、健康保険給付の対象としてワクチンの接種を受けた者については定期の予防接種の対象者から除かれます。

標準的なB型肝炎ワクチンの接種期間としては、生後2カ月に達した時から生後9カ月に至るまでとし、27日以上の間隔をおいてワクチンを2回接種(生後2カ月、3カ月での接種)した後、1回目の接種から139日以上の間隔をおいて3回目を接種(生後7〜8カ月での接種)することになっています。使用するワクチン製剤は遺伝子型A型、C型どちらのウイルス由来の製剤でも選択可能としています。

このように、B型肝炎ワクチンの定期接種が行われるようになった経緯については、以下のとおりです(表)。

表 B型肝炎ワクチンの定期接種化までの道のり

出来事
1985(昭和60) 6月より、「B型肝炎母子感染防止事業」が開始(全妊婦にHBs抗原検査を実施)
1986(昭和61) 1月より、「B型肝炎母子感染防止事業」として、HBs抗原およびHBe抗原陽性の妊婦から出生した乳児へ公費でB型肝炎ワクチン接種(HBIGとの併用)を実施
1992(平成4) WHOは加盟国に対し、B型肝炎ワクチンを予防接種拡大プログラムに組み入れるよう勧告
1995(平成7) HBs抗原陽性の妊婦から出生した乳児は全員が母子感染防止事業の対象となる「B型肝炎母子感染防止事業」が保険適用に
2012(平成24) 日本小児科学会が厚生労働大臣にあてて、B型肝炎ワクチンの定期接種化に関する要望書を提出
2013(平成25) 予防接種法改正案に対する衆・参厚生労働委員会での附帯決議で定期接種化の結論を得ることが求められる
2015(平成27) 広く接種を促進するための技術的検討結果が予防接種分科会で取りまとめられる
2016(平成28) 10月より、B型肝炎ワクチンの定期接種が開始
  • 厚生労働省ウェブサイト.厚生科学審議会(第8回予防接種・ワクチン分科会)資料1-1より引用改変

現在、WHO加盟国で全ての乳幼児にワクチンを接種する「ユニバーサルワクチネーション」を実施しているのは約180カ国に上り3)、そのうち140カ国以上は3回接種実施率が80%を超えています。日本においても、今後ユニバーサルワクチネーション実施国として高い接種率の維持が望まれます。

文献

  • 1) 厚生労働省健康局健康課予防接種室. IASR 2016; 37(8): 156-7.
  • 2) 公益財団法人 予防接種リサーチセンター. 予防接種ガイドライン2022年度版. 2022. p.8-9.
  • 3) 厚生労働省ウェブサイト.厚生科学審議会(第12回予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)資料1
    (https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000070693.pdf)2022年6月現在

Q17:HBVの再活性化(de novo肝炎)について教えてください。

A

HBV感染患者において、免疫抑制・化学療法などによりHBVが再増殖することをHBV再活性化といいます。HBV再活性化は、キャリアからの再活性化と既往感染者(HBs抗原陰性かつHBc抗体またはHBs抗体陽性)からの再活性化に分類され、このうち既往感染者の再活性化による肝炎をde novo肝炎といいます。HBV再活性化による肝炎は重症化しやすいだけでなく、肝炎の発症により原疾患の治療を困難にするため、発症そのものを阻止することが最も重要です(図)1)。また、de novo肝炎から乳幼児への水平感染を起こす可能性もあります。

de novo肝炎は、一度肝炎が治癒した状態(HBs抗原消失、HBs抗体陽性)からウイルスが再増殖するもので、まるで急性肝炎が新たに発症したようにみえます。これはB型肝炎に特徴的な現象であり、ユニバーサルワクチネーション(UV)が進んだ現在では、継続的に監視すべき事柄の一つとなっています。

HBs抗原が消失し、HBs抗体が陽性になっても肝臓内では感染性のあるウイルスが存在していることが分かってきました。そこで現在では、肝組織内においては感染性のあるウイルスの産生が持続するが、細胞性免疫を中心とするウイルス特異的な免疫応答によりウイルス増殖が抑制されている状態を「治癒」と考えるようになりました2)。この細胞性免疫が低下するとHBVが増殖して再活性化が起こります。

HBV再活性化のリスクは、主にウイルスの感染状態と免疫抑制の程度に規定され、慢性活動性肝炎、非活動性キャリア、既往感染者の順に高くなります。B型肝炎治療ガイドラインでは、HBV再活性化のリスクを有する免疫抑制・化学療法を行う全ての患者さんに、治療前にHBV感染をスクリーニングすること、およびHBV感染のスクリーニングはHBs抗原、HBc抗体およびHBs抗体検査、HBV DNA定量検査を感度の高い測定法で系統的に実施するよう求めています1)

図 免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン

  • 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「B型肝炎治療ガイドライン(第3.4版)」2021年5月,P78
  • https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html (2022年6月参照)

補足:血液悪性疾患に対する強力な化学療法中あるいは終了後に、HBs抗原陽性あるいはHBs抗原陰性例の一部においてHBV再活性化によりB型肝炎が発症し、その中には劇症化する症例があり、注意が必要である。また、血液悪性疾患または固形癌に対する通常の化学療法およびリウマチ性疾患・膠原病などの自己免疫疾患に対する免疫抑制療法においても、HBV再活性化のリスクを考慮して対応する必要がある。通常の化学療法および免疫抑制療法においては、HBV再活性化、肝炎の発症、劇症化の頻度は明らかでなく、ガイドラインに関するエビデンスは十分ではない。また、核酸アナログ投与による劇症化予防効果を完全に保証するものではない。

  • 注1) 免疫抑制・化学療法前に、HBVキャリアおよび既往感染者をスクリーニングする。HBs抗原、HBc抗体およびHBs抗体を測定し、HBs抗原が陽性のキャリアか、HBs抗原が陰性でHBs抗体、HBc抗体のいずれか、あるいは両者が陽性の既往感染かを判断する。HBs抗原・HBc抗体およびHBs抗体の測定は、高感度の測定法を用いて検査することが望ましい。また、HBs抗体単独陽性(HBs抗原陰性かつHBc抗体陰性)例においても、HBV再活性化は報告されており、ワクチン接種歴が明らかである場合を除き、ガイドラインに従った対応が望ましい。
  • 注2) HBs抗原陽性例は肝臓専門医にコンサルトすること。また、全ての症例において核酸アナログの投与開始ならびに終了にあたって肝臓専門医にコンサルトするのが望ましい。
  • 注3) 初回化学療法開始時にHBc抗体、HBs抗体未測定の再治療例および既に免疫抑制療法が開始されている例では、抗体価が低下している場合があり、HBV DNA定量検査などによる精査が望ましい。
  • 注4) 既往感染者の場合は、リアルタイムPCR法によりHBV DNAをスクリーニングする。
  • 注5) a. リツキシマブ・オビヌツズマブ(±ステロイド)、フルダラビンを用いる化学療法および造血幹細胞移植例は、既往感染者からのHBV再活性化の高リスクであり、注意が必要である。治療中および治療終了後少なくとも12か月の間、HBV DNAを月1回モニタリングする。造血幹細胞移植例は、移植後長期間のモニタリングが必要である。
    b. 通常の化学療法および免疫作用を有する分子標的治療薬を併用する場合においても、頻度は少ないながらHBV再活性化のリスクがある。HBV DNAのモニタリングは1〜3か月ごとを目安とし、治療内容を考慮して間隔および期間を検討する。血液悪性疾患においては慎重な対応が望ましい。
    c. 副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、免疫抑制作用あるいは免疫修飾作用を有する分子標的治療薬による免疫抑制療法においても、HBV再活性化のリスクがある。免疫抑制療法では、治療開始後および治療内容の変更後(中止を含む)少なくとも6か月間は、月1回のHBV DNA量のモニタリングが望ましい。なお、6か月以降は3か月ごとのHBV DNA量測定を推奨するが、治療内容に応じて高感度HBs抗原測定(感度0.005IU/mL)で代用することを考慮する。
  • 注6) 免疫抑制・化学療法を開始する前、できるだけ早期に核酸アナログ投与を開始する。中でも、ウイルス量が多いHBs抗原陽性例においては、核酸アナログ予防投与中であっても劇症肝炎による死亡例が報告されており、免疫抑制・化学療法を開始する前にウイルス量を低下させておくことが望ましい。
  • 注7) 免疫抑制・化学療法中あるいは治療終了後に、 HBV DNA量が20IU/mL(1.3LogIU/mL)以上になった時点で直ちに核酸アナログ投与を開始する(20IU/mL未満陽性の場合は、別のポイントでの再検査を推奨する)。また、高感度HBs抗原モニタリングにおいて1IU/mL未満陽性(低値陽性)の場合は、 HBV DNA量を追加測定して20IU/mL以上であることを確認した上で核酸アナログ投与を開始する。免疫抑制・化学療法中の場合、免疫抑制薬や免疫抑制作用のある抗腫瘍薬は直ちに投与を中止するのではなく、対応を肝臓専門医と相談する。
  • 注8) 核酸アナログは薬剤耐性の少ないETV、TDF、TAFの使用を推奨する。
  • 注9) 下記の①か②の条件を満たす場合には核酸アナログ投与の終了が可能であるが、その決定については肝臓専門医と相談した上で行う。
    • ①スクリーニング時にHBs抗原陽性だった症例では、B型慢性肝炎における核酸アナログ投与終了基準を満たしていること。
    • ②スクリーニング時にHBc抗体陽性またはHBs抗体陽性だった症例では、(1)免疫抑制・化学療法終了後、少なくとも12か月間は投与を継続すること。(2)この継続期間中にALT(GPT)が正常化していること(ただしHBV以外にALT異常の原因がある場合は除く)。(3)この継続期間中にHBV DNAが持続陰性化していること。(4)HBs抗原およびHBコア関連抗原も持続陰性化することが望ましい。
  • 注10) 核酸アナログ投与終了後少なくとも12か月間は、 HBV DNAモニタリングを含めて厳重に経過観察する。経過観察方法は各核酸アナログの使用上の注意に基づく。経過観察中にHBV DNA量が20IU/mL(1.3LogIU/mL)以上になった時点で直ちに投与を再開する。

文献

  • 1) 日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 編「B型肝炎治療ガイドライン(第3.4版)」2021年5月,P77-80,85
    https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html (2022年6月参照)
  • 2) 四柳宏. 化学療法の領域 2014; 30(11): 104-8.
【監修】(五十音順)
乾 あやの 済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 部長
藤澤 知雄 済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 顧問