A型肝炎とは?
A型肝炎は、A型肝炎ウイルスの感染によって、軽度から重度の炎症を肝臓に引き起こす病気です。汚染された食品や水の摂取、あるいは感染者との性行為などにより、A型肝炎ウイルスに感染します。
ほとんどの場合は、A型肝炎から完全に回復し、生涯にわたって免疫を持ちます。しかし、ごく一部において、劇症肝炎で死亡する可能性があります1)

A型肝炎は感染経路に関する正しい知識を持ち、ワクチンを接種することで防げる病気です。
感染するとどうなるの?
A型肝炎の潜伏期間は2~6週間(平均4週間)で、38℃以上の発熱、 全身倦怠感、 食欲不振、 頭痛、 筋肉痛、腹痛などの症状に続き、黄疸、 肝腫大などの肝症状が出現し、2~3か月で自然治癒するケースがほとんどです2)
A型肝炎は、B型肝炎やC型肝炎とは異なり、慢性的な肝疾患を引き起こすことはありませんが、衰弱のため入院治療を要することも多く、まれに劇症肝炎(急性肝不全)を発症します。
WHOの推計によると、2016年には全世界で7,134人がA型肝炎で死亡しています(ウイルス性肝炎による死亡率の0.5%を占めています)1)

感染経路

WHOでは、“A型肝炎の感染リスクは、安全な水の不足や衛生環境の悪さ(汚染された手や汚れた手など)と関連している”と提唱しています1)
公衆衛生の改善と共に発生は減少し、日本を含む先進諸国では大規模な流行はほとんど見られなくなりましたが、日本における近年の患者報告数は年間500人程度で推移しており、国外感染者がそのうちの2〜3割を占めています。主な感染源は国内感染例では牡蠣などの海産物、寿司、水、患者との接触が挙げられています3)。また、近年では、性行為による性感染症としての注意も行われています4)

食中毒
A型肝炎ウイルスによる食中毒を予防するために、厚生労働省では加熱調理用の二枚貝の扱いに際しては、中心部まで十分に加熱する必要があることや、 加熱調理用の二枚貝を触った後の手洗い、器具や食器の使い分け・消毒などにより、他の加熱せずに摂取する食材や調理済み食品への汚染を防ぐことが重要であると注意喚起しています5)
海外渡航
A型肝炎ウイルスは世界中に分布していますが、特にアジア、アフリカ、中南米に高度流行地域が多くなっています。このような流行地域に渡航する場合には、A型肝炎ワクチンの予防接種が勧められています4)
性行為
わが国では、2000年から2017年の間でのA型肝炎ウイルスの感染者数は一定の範囲に収まっていましたが、2018年に感染者数の増加が確認されました。
2000年~2017年 平均 266 例(範囲:115~502 例)
2018年 926 例(暫定値)
2019年 425
2020年 118 例(暫定値)

「予防接種に関するQ&A集」一般社団法人日本ワクチン産業協会、2021年8月第21版より作成

感染者の内訳は、男性が多く(95%)、推定される感染経路別にみると経口感染は35%だったのに対して、性的接触は60%という結果でした4)
2018年の流行とその後の沈静化について、国立感染症研究所 IASR Vol.40「2018年シーズンのA型肝炎の臨床像について」では
・流行の原因:男性間での濃厚な接触による糞口感染
・沈静化の原因:リスクが高いとされているHIV感染を有するMSMの方々に対する疾患の啓蒙とワクチン接種の実施
などが考察されています6)

※ MSM:Men who have sex with men

感染予防に、A型肝炎ワクチン接種を!
わが国では、生活環境の整備により感染の機会が少なく、60歳以下では、抗体保有率は10%未満と推計されており、予防接種を受けていない人や過去に感染したことのない人なら誰でも感染する可能性があります4)。その対策としてWHO では、衛生環境の改善や食品の安全性の確保と並んで、予防接種が効果的であるとしています1)
A型肝炎の感染が流行している国や地域への渡航前にはA型肝炎ワクチンの接種が勧められており、魚介類を扱う生産者や調理従事者、医療従事者や介護従事者、A型肝炎ウイルスの抗体陰性の慢性肝疾患患者、MSMの方々などに対する性行為感染予防にもA型肝炎ワクチン接種は有効であると考えられています4)