フォン・ヴィレブランド病について

監修:名古屋大学医学部付属病院 輸血部 教授 松下 正 先生

フォン・ヴィレブランド病とは?

フォン・ヴィレブランド病(von Willebrand disease:VWD)は血友病の次に多い出血性の病気で、止血に必要なタンパク質の1つであるフォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor:VWF)が少ないか、あるいはうまく働かないという病気です。1926年にフィンランドの医師エリック・フォン・ヴィレブランド氏により初めて報告されました。

フォン・ヴィレブランド因子は、出血するとすぐに血管の壁が破れて出てきたタンパク質(コラーゲン)と血液中の細胞(血小板)を結び付ける橋渡し役をすることによって、止血で重要な働きを担います。この血小板による止血を一次止血といいます。

フォン・ヴィレブランド病ではフォン・ヴィレブランド因子量の低下・機能の異常により、血小板が傷ついた血管壁に結合できず、血が止まりにくくなります。

フォン・ヴィレブランド病は遺伝性の病気です。しかし、患者さんの約30%は兄弟、両親、祖父母にフォン・ヴィレブランド病患者さんやフォン・ヴィレブランド病の素因を持つ人(保因者)がいないのにフォン・ヴィレブランド病を発症します。このケースを突然変異といいます。

患者数は人口の0.1%?1%と言われていますが、実際診断された患者さんは少なく、ほとんどが潜在化しており男女共にみられる病気です。

フォン・ヴィレブランド病は多くが軽症ですが、重症例もみられます。重症度や病型による治療方法やその効果も異なりますので、まず正確な診察を受けることが重要です。

フォン・ヴィレブランド病は粘膜や皮下の出血など表在部分の出血が多いのが特徴です。

国内のフォン・ヴィレブランド病患者は1,283人報告されています(2017年公益財団法人エイズ予防財団「血液凝固異常症全国調査」より)。

フォン・ヴィレブランド因子と血小板の粘着

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症状・病型

特徴的な症状として、鼻の中や歯ぐきからの出血(これを粘膜出血といいます)や皮膚の下からの出血などが主です。
フォン・ヴィレブランド病の病型は、フォン・ヴィレブランド因子が減少している1型、機能が十分に働かない2型、フォン・ヴィレブランド因子が完全にない3型に分けられます。さらに2型は機能別に4つ(2A・2B・2M・2N)に分けられます。

病型 基準 重症度 患者さんの割合 症状
1型 フォン・ヴィレブランド因子の減少 60~70% 60~70% 鼻血、歯ぐきの出血、切り傷で血が止まりにくい、血尿、抜歯後の止血困難、流産後の異常出血、分娩後の異常出血、性器出血、黄体出血、月経過多
2型 フォン・ヴィレブランド因子の機能異常
(2A,2B,2M,2N型)
重症(2A型) 20~30%
中等症~重症
(2B,2M,2N型)
3型 フォン・ヴィレブランド因子がない 最も重症 10%程度 上記に加えて、関節出血、筋肉内出血

診断

フォン・ヴィレブランド病は、類似した症状の病気があるため、診断が難しい病気です。他の病気と違いを判断する必要があります(鑑別診断といいます)。

フォン・ヴィレブランド病は病型の診断までされないと適切な治療ができません。そのため、診断には数多くの検査を受ける必要があります。

子供の頃から、出血が多かったり、止血しにくい、内出血しやすいといった症状がある場合は、血液内科でフォン・ヴィレブランド病かどうか、診断を受けましょう。

初潮から月経が重かったり、不整出血といった症状がある場合は、フォン・ヴィレブランド病の可能性があります。まずは婦人科を受診し、婦人科の病気でない場合は血液内科を受診しましょう。

血液型がO型の人は、フォン・ヴィレブランド因子が他の血液型と比べて20~30%低いといわれています。出血傾向のあるO型の人は、フォン・ヴィレブランド病の診断が難しくなり、複数回の検査が必要になります。

フォン・ヴィレブランド因子はホルモンの影響を受けやすいタンパク質で、妊娠、ストレスにより検査値が変動するため、診断には複数回の検査が必要です。

※特に妊娠後期には一般にフォン・ヴィレブランド因子は大量に産生されるため、軽症患者ではフォン・ヴィレブランド因子が正常値になる場合があります。

フォン・ヴィレブランド病の病型を分ける検査項目
フォン・ヴィレブランド因子抗原、フォン・ヴィレブランド因子活性、血小板凝集能(RIPA)、高分子フォン・ヴィレブランド因子マルチマー(血漿・血小板)、マルチマー像

製剤の投与

フォン・ヴィレブランド病の患者さんの治療には酢酸デスモプレシン製剤(DDAVP)、フォン・ヴィレブランド因子を含む血液凝固第Ⅷ(8)因子製剤の投与があります。

酢酸デスモプレシン製剤は、体に貯蔵されているフォン・ヴィレブランド因子を血液中に放出させ止血します。

フォン・ヴィレブランド病の治療は、フォン・ヴィレブランド因子量の減少である1型では、酢酸デスモプレシン製剤が投与されるほか、全ての病型でフォン・ヴィレブランド因子を含む第Ⅷ(8)凝固因子製剤の投与が行われます。

酢酸デスモプレシン製剤は3型には無効で2B型には使えません。

酢酸デスモプレシン製剤で効果がない患者さんや、比較的程度の重い出血、大きな手術の場合は、フォン・ヴィレブランド因子を含む第Ⅷ(8)因子製剤を投与します。

フォン・ヴィレブランド因子を含む血液凝固第Ⅷ(8)因子製剤の投与は全ての病型に効果がありますが、フォン・ヴィレブランド因子を持たない3型では、まれにインヒビター(抗体)が発生して効果が落ちる場合があります。

フォン・ヴィレブランド病の病型 酢酸デスモプレシン製剤
(DDAVP)の効果
フォン・ヴィレブランド因子を含む
血液凝固第Ⅷ(8)因子製剤の効果
1型 通常有効 有効
2A型、2M型、2N型 症例により有効、または無効 有効
3型 無効 有効
(インヒビターが発生して止血効果が落ちる場合があります)
2B型 禁忌 有効

投与量

酢酸デスモプレシン製剤の場合(1型、2A、2M、2N型で使用)
0.4μg/kgを生理食塩水約20mLに希釈し10~20分かけてゆっくり静脈投与

出血症状 補充療法
1日(1回)投与量
(VWF:Rcof)※1
投与期間
自然出血、外傷性出血
(鼻血、口の中の出血など)
20単位/kg 1回(重度の場合は症状が消えるまで)
抜歯 20単位/kg 術前1回
小手術 30単位/kg 術前1回、術後1日1回、3~5日
大手術 50単位/kg 術前1回、術後1日1回、約1週間
  • ※1:VWF:Rcof(リストセチンコファクター活性)はフォン・ヴィレブランド因子量を示します。フォン・ヴィレブランド因子はリストセチンという物質を用いてフォン・ヴィレブランド因子の機能を算出しています。
    ・補充療法は病院のみではなく、ご家庭での投与も可能です(これを家庭治療といいます)。主治医に相談しましょう。

出血時の対処(1型・2型の患者さんの場合)

多くの場合は下記のような出血がみられますが、軽症な場合が多く、普段は気にすることなく生活できます。止血できない場合は主治医に相談してください。

部位 処置のポイント
皮下 多くの場合は何もしなくても血は止まります。
口腔内 何もしなくても血は止まります。止まりにくい場合は飲み薬のトラネキサム酸を使います。
鼻粘膜 ワセリンなどの刺激のない軟膏を塗布したガーゼ、脱脂綿等を詰め込み、圧迫します。
軽いけが
(切り傷、すり傷)
ガーゼ等で圧迫します。
血尿 多くの場合は、水分を多くとって安静にしていると止血します。血尿を繰り返す場合は主治医に連絡してください。トラネキサム酸の使用はできません。
月経過多 異常な出血、月経過多の場合は主治医(または産婦人科医)へ相談してください。
抜歯や手術 主治医へ相談してください(酢酸デスモプレシン製剤やフォン・ヴィレブランド因子を含む第Ⅷ(8)因子製剤を使用する止血管理が必要です)。
関節内 関節の腫れ、痛み、違和感、むずむず感などが現れます。筋肉では筋肉痛のようなだんだん熱を帯び、腫れてきます。患部を氷などで冷やし(関節や筋肉の損傷を防ぎます)、至急、主治医に連絡してください。
筋肉内
頸部やのど 緊急を要する出血です。頭を打つことでおこり、頭が痛い、吐き気がする、痙攣する、熱が出るなどの症状は注意です。首周りでは、気道や血管、神経を圧迫して生命に関わります。至急、主治医へ連絡してください。
頭蓋中

3型の患者さんは種々の出血に対してフォン・ヴィレブランド因子を含む第Ⅷ(8)因子製剤の早期の投与が必要です。

日常生活上での注意点

【日常生活の注意】

  1. 普段の生活では・・・
    1型や2型で軽症の患者さんは普段の生活で特別に注意する事はありませんが、出血時には応急の止血法を知っておく事が大切です。また、普段よりも長い時間止血しない、出血量が多いと感じた場合は、主治医に相談してください。
  2. 出血による貧血対策
    鉄分の吸収率のいいレバー、卵黄、シジミ、アサリ、ほうれんそう、ひじき、ゴマなどの食品をとるといいでしょう。貧血がひどいときは鉄剤を飲む場合もあります。
  3. 飲むのを避けたい薬
    解熱・鎮痛剤に含まれるアスピリンやインドメタシンは止血を妨げる作用があるので、これらの成分を含む薬は避けてください。薬局・薬店で売っている風邪薬や解熱・鎮痛剤にも入っている事があるので、購入時には薬剤師に成分を確認してください。解熱・鎮痛剤としてはアセトアミノフェンが最も安全です。
  4. 歯周病や虫歯に気をつけましょう。
    歯周病や虫歯になると、出血の原因になります。日頃から歯周病や虫歯にならないようにしましょう。歯ぐきからの出血を繰り返す場合や虫歯(抜歯)がある場合は主治医に相談の上、歯科医を受診してください。

【今後の生活にあたって】

  1. 保育園、幼稚園、学校での生活では・・・
    出血すると止まりにくいことや出血した際の一般的な対処法(安静=rest、冷やす=ice、圧迫=compression、挙上=elevation:これらをRICEといいます)を園、学校側へ説明しておくといいでしょう。緊急時の連絡先もあらかじめ伝えておき、出血時には直ぐに連絡してもらえるようにしましょう。
  1. 旅行(国内、海外)するときは・・・
    旅先で緊急時にかかれる病院や対応について事前に主治医に相談しておくと安心です。また、何度も治療を受けている場合は、事前の治療(予備的補充療法)や、製剤を携帯することも可能です。製薬会社が作っているヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)を使うと便利です(ご希望により提供しますので、主治医に申し出てください)。海外旅行の場合はヘモフィリアハンドブックの該当項目を事前に主治医に英文で記載してもらってください。
  • ヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)
    ヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)
  1. 就職や結婚をするとき
    病気について説明する事が必要であれば、主治医や医療スタッフに相談してください。
  2. 出産は安全に出来る?
    1型の場合、妊娠後期にフォン・ヴィレブランド因子の血中濃度が高くなりますので、特別な対処をせずに出産できます。2型、3型の場合でも、補充療法によって出産時の止血をコントロールできる場合もあります。

【受診時や緊急時に備えて】

  1. 出血と治療内容を記録しましょう!
    出血の日時、箇所、痛みや腫れの有無、使用した血液製剤の製剤名、単位数、ロット番号などの記録をつけましょう。製薬会社が作っているヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)を使うと便利です(無料ですので、主治医に申し出てください)。受診時に主治医にそれを見せる事により来院までの病状の経過を理解してもらえます。また患者さん自身で病状や治療の経過が把握できるようになります。
  2. 緊急時に備えましょう!
    名前、生年月日、家族名、緊急連絡先、病名、病院名、病院の連絡先、診察券番号、主治医名、製剤名、投与量などを記入したカード等を用意しておくと便利です。製薬会社が作っているヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)や緊急カードを使うと便利です(無料ですので、主治医に申し出てください)。また、緊急時の連絡方法や夜間、日曜・祝日に受診可能な医療機関を確認しておく事も大事です。