注射は痛くないの?-その1-

執筆:医療法人松丸会 しまだ小児科 院長 島田 康 先生
(2006年執筆)

「おりこうにしないと病院で注射をしてもらいますよ!」。よく聞くフレーズです。また、どこの医療機関でも耳にされていることでしょう。逆に「注射は痛くないよ」とか、「先生上手だから注射は痛くないよ」とかも、同じ状況でしょう。いずれにしても子どもたちに「嘘をついている」ことに違いはありません。あたりまえですが、おりこうにしていても注射は必要ですし、どんなに上手でも注射は痛いのです。

一方で、注射時に怖がらず、また泣かない赤ちゃんも少なからず見かけます。赤ちゃんには、恐怖心はなく前回の記憶も定かではないのでしょう。もっとも、会場のあちこちで、他の赤ちゃんが泣いていれば別なようですが。以前(1997年)、「予防接種を受ける前に子どもに注射の意義を教えれば、子どもは泣かないか」という共同研究に参加したことがあります。予防接種時における子どもの恐れ行動を明らかにするため、日本外来小児科学会会員16施設でアンケートをとり解析しました。

注射時の反応は、「おとなしい」69.2%、「むずがってはいるが泣いてはいない」12.4%、「泣いているがじっとしている」14.4%、「パニック」4.1%であり、意外におとなしく注射を受けていることが分かりました。他の注射歴がある、予診中に既に泣いたり逃げようとしたりした、予防注射針が大きい、周囲で泣いている、など、パニックに陥った子どもさんは、予防接種の種類、接種歴、接種時の環境などが影響していました。

その結果、「子どもにやさしい」予防接種を行うには、接種の実施に関わる手法や道具の改善だけでなく、接種会場の環境など接種を受ける子どもたちの周囲への配慮が必要なことが、これらの解析の結果明らかになりました。事前に予防接種を説明したことは、子どもの恐れ行動には、残念ながら有意の差はありませんでした。しかしながら、工ビデンスはなかったとしても、ある程度の年齢の子どもさんには、予防接種をなぜするのか、保護者の方から事前に説明していただくことも必要であると考えています。また、普段から保護者の方が、子どもさんに「注射は痛いけれど、病気にかからないために必要だよ」と事前説明するように指導していくことも、接種医の仕事であると考えています。