注射は痛くないの?-その2-

執筆:医療法人松丸会 しまだ小児科 院長 島田 康 先生
(2006年執筆)

前回、「注射は痛くないの?-その1- 」で「注射は痛いけれど、病気にかからないために必要だよ」ということを予防接種を受ける子どもさんにあらかじめ言っていただきたいということを話しました。でもなかなか、具体的にはどのように伝えればよいか悩むところです。注射は「痛いよ、痛いよ」と強調すれば、「おりこうにしないと、病院で注射をしてもらいますよ!」と結果は同じことになります。そこで当院の保育士(前任)に、予防注射ストーリーを作ってもらいました。題して「痛いの痛いのア・イ・ウ・エ・オで飛んでゆけー!!!」

以下はストーリーのあらましです。
ある日、お母さんが子ども(ここでは太郎君としましょう)に言いました。
「あした病院に行って予防接種という、注射をしますよ。」
太郎君はすかさず「注射はいやだ、ちゃんとおりこうにして、ご飯もちゃんと食べてるし、手もちゃんとあらっているし、夜も早く寝て朝も早く起きているのに、なぜ注射するの」とお母さんに突っ込みました。
お母さん「注射は、おりこうでないからするのではなく、病気にならない為にするのですよ。」
太郎君「痛いのはいやだ、病気になった方がお母さんが優しくしてくれるからいい。」
お母さん「でも病気になったら、美味しいご飯も大好きなお菓子も食べれなくなるかもしれないよ。」
太郎君「え~っ。でもやっぱり注射はいやだ。」
お母さん「お友達と長く遊べなかったり、ひどくなると大きい病院で何日もお泊まりしないといけなくなりますよ。」
太郎君「ふ~ん。」
お母さん「あしたの注射は、予防接種と言って、病気にならない為にするんです。太郎は覚えてないかもしれないけれど、赤ちゃんの時から何回も注射してきているのですよ。だから大きい病気にならなかったのですよ。注射はお母さんも痛いけれど、痛くて泣いても良いからがんばってみようか。」
太郎君、仕方なく小さな声で「うん。」そして翌日、ドキドキしながら太郎君は、注射を受けに近くのいつもの病院に行きました。お母さんが先生と何か話しています。しばらくすると、「太郎君おいで」と呼ばれました。いよいよだとドキドキして、先生のそばに腕を出しました。すると先生は、「注射はまだだよ、“もしもし”しようね」と言っていつもと同じに“もしもし”と“あ~ん”をしました。先生がお母さんに「予防接種できますよ」と言って、それを聞いたお母さんが紙に名前を書きました。すると看護師さんが、注射器を持ってきました。いよいよです。ドキドキは最大になりました。「アっ」、「イたい」、「ウ~がんばるぞ」「エ~もう終わったの?」「オ~がんばったぞ。」太郎君は、本当は少し涙が出たのですが、看護師さんが「がんばったね」と言ってくれたので、つい「うん、がんばった。泣かなかったよ」と言ってしまいました。

このようなストーリーを紙芝居にして、ビデオに撮りました。予防接種が個別化された頃は、そのビデオを連日流して、保護者の方も熱心にご覧になっていましたが、最近は慣れてきたのか、あまりご覧になる方も減り、また、こちらも流さなくなりつつあります。昨今は、注射をいやがり逃げ回る子どもさんが、逆に新鮮に見えることもあります。