本丸とお堀~ワクチンの予防効果について~

執筆:医療法人松丸会 しまだ小児科 院長 島田 康 先生
(2006年執筆)

私は、熊本に住んでいますので天下の名城と言われる「熊本城」は地元自慢のひとつです。加藤清正が築城して2007年で400年を迎え、2008年には最大の建造物である「本丸御殿」が落成しました。現在、熊本城の次なる100年に向けて、2008年より10年間を目処に、熊本城の復元整備を進めているところです。忍者になった気で城内を散策すると、お城で一番大事な「本丸御殿」を守るため、城を囲む「外堀」や「内堀」などでいかに工夫して敵を防いでいたかに気付かされ、面白いかもしれません。ぜひ熊本城へおいで下さい。

※このレポートは2016年の熊本地震よりも前に執筆されたものです。

インフルエンザ予防接種のときに、小さな子どもさんにのみ注射を希望された家族がおられました。
家計への負担と、小さな子どもさんをおもんぱかってのことでしょうが、保育施設にも行っていない子どもさんのみの接種は、お城で言えば「本丸御殿」のみの防御であり、「外堀」も「内堀」もないのと同じです。瞬く間に敵に攻め込まれてしまいます。家庭において誰が一番重要か(偉いか)というたとえではありません。家庭をお城とたとえ、大切な小さな子どもさんを「本丸御殿」とすると、外部との接触が多い家族は「外堀」、外部との接触が頻繁ではなかったり、日中小さな子どもさんの傍でお世話をしたりする家族が「内堀」、とたとえられるでしょうか。「お堀」である周りの家族がインフルエンザの予防接種をきっちりできていることで、防衛機能が働き、「本丸御殿」(小さな子どもさん)に、簡単に敵の侵入(インフルエンザの感染)を許すことはないかもしれません。

今度は、お城を「地域社会」と見てはいかがでしょうか。インフルエンザに限らず、日本では麻疹や風疹などの定期接種の接種率が低く、時折流行が見られるのは、「外堀」や「内堀」の城壁に未完成部分が多いことで敵の進入を防げていないことと同じではないでしょうか。いくら頑強な城壁でも打ち破られてしまうことがあるのは、構造上5~30%と弱い部分があるからと知られています。ましてや城壁すらなければ自由に敵が侵入出来ます。ある学会で、「インフルエンザワクチンを学校で義務接種としていた頃は、高齢者の超過死亡が少なかった」という発表を聞いたことがあります。もちろんこの発表をもとに、予防接種を学校でしなさいとか言うつもりではありません。

義務接種としていた頃は、子どもたちがワクチンを接種し「外堀」として防衛体制を整えることで、「本丸御殿」であるご年配の方が守られていたのでは、ということです。また同じようにご年配の方がワクチン接種をすることで、今度は「内堀」として、小さな子どもさんを「本丸御殿」として守ることにもなります。予防接種はインフルエンザに限らず、まず自分が接種して「お堀」の一部として防衛力を高めることで、自分を含めたお城(地域社会)の中の人々を守る可能性が高まります。

誰々の為に予防接種をしなさいというのではなく、自分のためと受けた予防接種が実はみんなの為にもなっており、またみんなが受けることで、自分の為にもなっていることを知ってほしいものです。

"All for Your Child, Your Child for All."
子どもさんの定期予防接種も忘れないようにしましょう。