今から、ワクチン航空に搭乗です?!~予防接種時の安全確認について~

執筆:医療法人松丸会 しまだ小児科 院長 島田 康 先生
(2006年執筆)

全世界的な航空機関係事件の多発を受けて、飛行機に搭乗する際の検査が厳しくなっています。でも以前から結構、搭乗前の検査は厳しい時もありました。今のような機械はなかったので、一人ずつお立ち台のようなところに上がり、身体検査(ボディタッチ)からズボンの裾まで触られていました。カバンの中もひっくり返されたり、電卓のような電子機器は、本物かどうか試しに計算させられたりなど、今となれば滑稽なこともたくさんありました。現在では手荷物の中身をX線で透視したり、ペットボトルまで機械でチェックしていますね。こういった技術の進歩によって、事件や事故が起こる確率は減っていると思います。

さて、心配性の保護者の方が「先生!この予防接種で亡くなられた人がいたんですよね?」と緊張気味に質問に来られることがあります。担当医は次のように答えました。

「どれだけ準備や確認をしても色々な事故のニュースは無くなりませんよね。例えば飛行機の事故。飛行機の場合はどうしても事故が起こると亡くなる方が多いことはご存知ですよね。だから事故が起こるかもしれないから乗らない、という方もおられるはずです。でも移動手段として飛行機の必要性がある、と考える人たちが世界中のどこかで毎日利用している訳です。落ちる可能性があるから乗らない、という方はおられても、飛行機そのものを飛ばせてはいけない、と言い張る方はあまりいませんよね。」

そうですね。お気づきのように、この考え方は予防接種と似ていませんか?接種事故が起こる可能性をゼロにできないことは、医療関係者は皆承知しています。
先ほどの飛行機の例えを引用すると、飛行機はまず搭乗前の整備段階で十分なチェックをしています。同じように予防接種で言えば、予約から始まりカルテのチェック、ワクチンの管理などがそれにあたるでしょうか。そして目的地へ搭乗客を安全に送り届けるための運航ルールが、予診や診察、接種にあたります。医療機関には、飛行機の運航ルールと同じように、安全に予防接種を実施するための「予防接種ガイドライン」というものがあり、これに基づいて、決して無理をせず、ガイドラインで定められたことを遵守して接種する訳です。
37.5℃をちょっと超えただけでも、多少風邪症状があるという程度でも接種を見合わせることはあり得ます。

接種を見合わせた保護者の方々の今後の仕事の段取りとか、ガッカリされる姿をみると「接種しようか」という気持ちにもなりますが、それは整備が不十分で、安全確保のための運航ルールを守っていない飛行機に乗ることと同じで、危険が増大しかねないので中止するということを保護者の方に理解していただきたいのです。ルールを守らず接種した結果として事故が起き、あちこちで同様の事故が多発したら、予防接種全体の印象が大変危険な行為となりかねません。医療機関は「確実な整備を行って搭乗客を待つ航空会社」であり、予防接種を受ける子どもたちは「搭乗客」です。最近では飛行機に乗る時のルールが多くなったのと同じで、我々医療機関からも、保護者の方々にルールを理解していただきたいと考えます。もちろん「整備」も「運航」も万全の状態であることが当然ではありますが、保護者の方々も「搭乗(接種)する航空会社(医療機関)」の「整備(予約やワクチンの管理)状況」や「運航(予診や診察、接種)状況」をチェックしていただきたいと考えます。