ポジティブとネガティブ

執筆:医療法人松丸会 しまだ小児科 院長 島田 康 先生
(2006年執筆)

最近は、写真機もデジカメ(デジタルカメラ)が中心になり、フィルム(カメラ)の方が珍しくなってきています。また医療機関でも同様で、レントゲンもデジタル化されました。デジカメが一般化する前には、写真屋さんに「ネガ」を持っていき「焼き増し」をお願いしていたものです。旅行の幹事などすると大変ではなかったですか?この「ネガ」は、ご承知のように「ネガ(ティブ)フィルム」のことで、当然のように「ポジ」は、「ポジ(ティブ)フィルム」といってスライド用のものが今でもあります。

普段の生活でも、表裏一体というぐらいで、一見、違って見えることが実は密接につながっていることはたくさんあり、医療の世界でも同じです。「この予防接種の効果はどの程度ですか?」という保護者の方の問いに対して、「このワクチンは95%の効果が期待できます」と答えるか「5%は効果がない場合があります」と答えるか、皆さまはいずれのパターンでしょうか?ポジとネガの関係です。学生の頃は、苦手な科目は70点でも、時には60点でも満足していませんでしたか?しかしながら、予防接種に対しては、保護者の方々はその期待が大きいのか、95点(つまり95%)でも満足されてないようです。

もちろん、予防接種の効果を100%に近づけて欲しいとは我々も考えています。ただ、それが難しいことも分かっています。しかしながら、ちょっとした言葉の使い方で印象が変わってしまうことも予防接種に関しては多いようです。重い副反応が生じた方やそのご家族には大変申し訳ないのですが、「この予防接種で重い副反応が出ました」というのと、「100万人接種して、お一人の方に重い副反応がありました」というのでは、随分と受ける印象は違ってきます。もちろん重い副反応が出た方やそのご家族には、そのような数学的な確率は問題外であることは十分承知していますが、ちょっとした言い回しで印象が違うということを言いたいためですのでご理解ください。

また、よく受ける保護者の方からの質問として、「予防接種はしないといけないのでしょうか?」というのがあります。その問いに対して答える際に、効果や副反応を楽観的に答えて欲しいという訳ではありませんが、担当医師がポジティブに答えるか、ネガティブに答えるかで、保護者の方の受け取る印象は随分違ってきます。我々も出来るだけ、保護者の方の質問に客観的に答える手法を持つ必要があり、また保護者の方が客観的に評価出来るよう説明出来るようになりたいものです。