血友病について
監修:聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院小児科 教授 瀧 正志 先生
血友病とは?
血友病(Haemophilia)とは血液中の血を固めるタンパク質の一部が欠乏、またはうまく働かないために止血異常をきたす代表的な病気です。
血の固まる仕組みには10種類以上タンパク質(血液凝固因子)が関わっており、そのなかでも、8番目のタンパク質(血液凝固第Ⅷ(8)因子)の欠乏、または機能低下している病気を血友病A、9番目のタンパク質(血液凝固第Ⅸ(9)因子)の欠乏、または機能低下による病気を血友病Bといいます。
血液凝固因子のはたらき
- ※内因系凝固と外因系凝固
- 血液中に常に存在する血液凝固第Ⅻ(12)因子が、外部の異物に触れることによって始まる止血の経路を「内因系凝固」といいます。
- 普段は血管内の細胞に存在し血液中には存在しない組織因子が、血管が傷つくことで血液中に現れることによって始まる止血経路を「外因系凝固」といいます。
血友病は遺伝性の病気です。しかし、患者さんの約30%は兄弟、両親、祖父母に血友病患者さんや血友病の素因を持つ人(保因者)がいないのに血友病を発症します。このケースを孤発例といい、突然変異がその原因と考えられています。
血友病はX連鎖劣性遺伝という遺伝形式の病気であるため主に男性が発症しますが、きわめて稀に女性も発症します。
日本の血友病の患者数は血友病Aで5,326人、血友病Bで1,129人と報告されています(2017年公益財団法人エイズ予防財団「血液凝固異常症全国調査」より)。
症状・病型
特徴的な出血症状は、筋肉内出血、関節内出血などの体の深部での出血です。
皮膚の下、鼻の中、口の中の出血などのほか、抜歯時や手術時は止血が難しくなります。
出血症状は活動が活発になる乳幼児後半で、臀部(おしり)や前額部(ひたい)などに皮下出血がみられるようになります。
頭を強くぶつけた場合や、頭の中の出血、頸やのどの出血、腰や腹の筋肉(腸腰筋)の出血は、緊急の対応(製剤の投与や入院治療)が必要です。
出血の多い場所
血友病の病型は血液中の第Ⅷ(8)因子、または第Ⅸ(9)因子の機能(凝固活性)の値で決められます(凝固活性:健康な人の凝固活性を100%として算出します)。
病型は、重症:1%未満 中等症:1〜5%未満 軽症:5%以上に分類されます。
血液中の第Ⅷ(8)因子や 第Ⅸ(9)因子の値で決めた重症度は、出血の回数や程度にほぼ相応すると言われています。
製剤の投与(補充療法)
血友病の出血に対する治療としては、凝固因子を含む製剤(凝固因子製剤)の静脈内注射(補充療法)が基本です。
注射の方法として、手の甲や肘の末梢静脈のほか、静脈注射が難しい場合は中心静脈アクセスデバイス(Central venous access device:CVAD(埋め込み型と体外型があります))を使用することもあります。
血友病Aには凝固因子第Ⅷ(8)因子製剤、血友病Bには凝固第Ⅸ(9)因子製剤を使用します。
血友病Aの中等症や軽症患者の軽度な出血に対しては合成ホルモン剤のDDAVPを注射します。
凝固第Ⅷ(8)因子製剤、凝固第Ⅸ(9)因子製剤はそれぞれ血漿由来製剤と遺伝子組換え型製剤があります。
投与量は出血箇所、程度などによって変わります。
以下の式に基づいて投与量が算出されます。
【計算式】
第Ⅷ因子:必要投与量(単位)=体重(kg)×目標ピーク因子レベル(%)※1×0.5
第Ⅸ因子:必要投与量(単位)=体重(kg)×目標ピーク因子レベル(%)※1×(1〜1.4)※2
- ※1:目標ピーク因子レベル:止血に必要な血液中の凝固因子の最高時濃度を目標ピーク因子レベルといいます。
- ※2:第Ⅸ(9)因子の回収率は個人差が大きく係数に幅があるので(1〜1.4)主治医にご相談ください。
補充療法の種類
出血時に補充する方法以外に、出血を事前に防ぐ投与方法もあります。またこれらの補充療法は病院のみではなく、ご家庭でも投与可能です(家庭療法といいます)。それぞれの方法については、主治医の先生にご相談ください。
出血時の注射 (オン・デマンド注射) |
出血時に凝固因子を注射し、止血を行う方法です。出血早期に注射することが大切です。 |
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事前注射 (予備的補充療法) |
運動会、遠足、部活などの活動的な場合に、当日の朝など事前に製剤を注射しておき、出血を予防する方法です。 |
定期補充療法 |
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出血時の対処
急性出血時の対処と補充療法
出血したら直ぐに、製剤を投与しましょう。応急処置として、圧迫止血や冷却、拳上が必要です。
また出血部位によっては主治医への早急な連絡が必要です。
出血部位 | 主な症状と補充療法 |
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関節内 筋肉内 |
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口腔内 |
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消化管 |
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皮下 |
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鼻粘膜 |
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血尿 |
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頭蓋内 |
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乳幼児の頭部打撲 |
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圧迫止血と患部の冷却の仕方
日常生活上での注意点
【日常生活の注意】
- 軽いすり傷や切傷のような場合には、出血部位の付近を水道水などで十分に洗い、清潔なガーゼ等で圧迫すると止血できます。止血できない場合、出血量が多いと感じた場合は、製剤を投与し主治医や医療スタッフに相談してください。
- 頭をぶつけた場合や、頭の中の出血、首周りやのどの出血、腰や腹の筋肉の出血は緊急の対応が必要です。直ぐに製剤を注射して、直ぐに病院にいきましょう。
- 飲むのを避けたい薬 解熱・鎮痛剤に含まれるアスピリンやインドメタシンは止血を妨げる作用があるので、これらの成分を含む薬は避けてください。薬局・薬店で売っている風邪薬や解熱・鎮痛剤にも入っている事があるので、購入時には薬剤師に成分を確認しましょう。解熱・鎮痛剤としてはアセトアミノフェンが最も安全です。
【今後の生活にあたって】
- 保育園、幼稚園、学校での生活では・・・
出血すると止まりにくい事や出血した際の一般的な対処法(安静=rest, 冷やす=ice, 圧迫=compression, 挙上=elevation:これらをRICEといいます)を園、学校側へ説明しておくといいでしょう。緊急時の連絡先もあらかじめ伝えておき出血時には、直ぐに連絡してもらいましょう。
- 旅行(国内、海外)するときは・・・
旅先で緊急時にかかれる病院や対応について事前に主治医に相談しておくと安心です。また、事前の注射(予備的補充療法)や、製剤を携帯することも可能です。製薬会社が作っているヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)を使うと便利です(ご希望により提供しますので、主治医に申し出てください)。海外旅行の場合はヘモフィリアハンドブックの該当項目を事前に主治医に英文で記載してもらってください。 -
就職や結婚するとき
病気の説明に関して必要であれば、主治医や医療スタッフに相談してください。
【受診時や緊急時に備えて】
- 出血と治療内容を記録しましょう!
出血の日時、箇所、痛みや腫れの有無、使用した血液製剤の製剤名、単位数、ロット番号などの記録をつけましょう。製薬会社が作っているヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)や輸注記録票を使うと便利です(無料ですので、主治医に申し出てください)。受診時に主治医にそれを見せる事により来院までの病状の経過を理解してもらえます。また患者さん自身で病状や治療の経過が把握できるようになります。 - 緊急時に備えましょう!
名前、生年月日、家族名、緊急連絡先、病名、病院名、病院の連絡先、診察券番号、主治医名、製剤名、投与量などを記入したカード等を用意しておくと便利です。製薬会社が作ってるヘモフィリアハンドブック(血友病手帳)や緊急カードを使うと便利です(無料ですので、主治医に申し出てください)。また、緊急時の連絡方法や夜間、日曜・祝日に受診可能な医療機関を確認しておくことも大事です。