後天性血友病について
監修:奈良県立医科大学小児科 教授 嶋 緑倫 先生
後天性血友病とは?
後天性血友病とは、何らかの自己免疫学的機序により、後天的に血液凝固因子に対する自己抗体(autoantibody)が産生され、その抗体により血液凝固反応が阻害され、止血が困難になる疾患です。
一般に高齢者および分娩時に多く、自己免疫疾患、リンパ腫、慢性炎症性疾患等の基礎疾患を有する場合が約半数といわれていますが、詳細な発症機序は不明です。
発症率は年間100万人に1.5人で、発症年齢は20~30歳と60~70歳代の2つのピークがあります。
インヒビターのタイプ(先天性との違い)
先天性血友病の患者さんが凝固因子製剤を投与することにより発症するインヒビターは製剤由来の凝固因子に対する同種抗体(alloantibody)ですが、後天性血友病の場合は自分自身の凝固因子に対する自己抗体(autoantibody)です。
診断
臨床症状:出血症状は、広範囲で重篤な場合が多いといわれています。後天性血友病で最も頻度の高い出血症状は皮下出血です。特に打撲部位、注射部位に発生しやすいといわれています。その他の出血部位では筋肉内、消化管などが多く、関節内出血はまれです。
検査:血小板数、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定します。血小板数やPTが正常で、APTTが延長する場合、第Ⅷ(8)因子活性や第Ⅷ(8)因子インヒビターを測定し、後天性血友病であるかを診断します。
治療方法
1)出血症状に対する止血治療
後天性血友病の止血治療は、主にバイパス止血製剤によるバイパス止血療法です。 現在わが国で使用できるバイパス止血製剤は、血液凝固第Ⅹ(10)因子加活性化第Ⅶ(7)因子(FⅦa/FⅩ)、血液凝固因子抗体迂回活性複合体(aPCC)と、遺伝子組換え活性型血液凝固第Ⅶ(7)因子(rFVIIa)です。なお、第Ⅷ(8)因子製剤による止血治療は投与量の決定が極めて困難です。酢酸デスモプレシン(DDAVP)は軽度の出血には使用される場合もあります。
2)インヒビターの消失を図る免疫学的治療法
免疫学的療法は後天性血友病の最も重要な治療法です。基本的には免疫抑制剤が用いられます。使用される製剤は主に副腎皮質ホルモン製剤単独か、シクロフォスファミドとの併用療法です。分娩や薬剤関連性の後天性血友病では、インヒビターが自然に消失する場合もあります。
後天性血友病について
日常生活上の注意点
1)患者には出血歴がないので、出血に対する認識が低いです。第Ⅷ(8)因子が回復するまでは、外傷打撲等に注意が必要です(=出血をひきおこさないように注意が必要です)。
2)第Ⅷ(8)因子が回復した後は、筋力低下しないように長期にわたる寝たきりは避けることが望ましいです。