新生児マススクリーニングについて
新生児マススクリーニングは、生まれつき特定の酵素が欠損する、あるいは特定のホルモンが過不足するなどの結果、知的障害や身体の発育に障害を起こす先天性の疾患等について早期発見・早期治療により発症を未然に防止して心身の障害を予防したり、患者さんのQOL(Quality of life)の向上を目的として行うものです。
新生児マススクリーニングには全国一律で受けることのできる先天代謝異常等検査(公費検査)とご家族の費用負担にて任意で受けることのできる拡大スクリーニング検査があります。
先天代謝異常等検査(公費検査)と拡大スクリーニング検査
先天代謝異常等検査(公費検査)
先天代謝異常等検査は、全国一律で公費で受けることのできる検査のことで日本では1977(昭和52)年より厚生労働省の指導の下、各自治体が主体となって行っています。日本で生まれた全ての赤ちゃんが検査を受けることができ、この取り組みによって先天性の難病を早期に見つけることが可能となりました。検査法や診断・治療法の進歩と共に対象疾患は拡大され、2013(平成25)年からは質量分析計(タンデムマス検査)の導入で検査項目は一気に拡大し、現在では少なくとも20疾患について検査が行われています。
拡大スクリーニング検査
拡大スクリーニング検査は全国一律で受けることのできる先天代謝異常等検査(20疾患)に含まれていないものの、医学の進歩により治療法が開発され、新たに検査が可能となった先天性の病気を見つけるための検査です。早期発見・早期治療により発症予防、QOL(Quality of life)の向上が可能となった疾患が対象であり、ご家族の費用負担にて任意で受けることができる検査です。
検査体制について
新生児マススクリーニングは、実施主体、保護者への説明と採血を行う産科医療機関等、検査を行う検査施設、精密検査と診断及び治療を行う大学病院等の精密検査施設との緊密な連携と協力体制の下に行われています。
検査体制
検査の流れについて
産科医療機関等にて生後4~6日目の赤ちゃんのかかとから少量の血液を採取し、専用のろ紙に染みこませて専用封筒で検査施設へ郵送していただきます。郵便局から回収した検体は、検査施設で受付(記載情報の確認や採血状態の確認など)と検査を行い、検査結果を産科医療機関等及び自治体へ報告されます。
(例)当社で使用している血液ろ紙と郵送用の専用封筒
公費検査対象の疾患について
2023年現在、下記の疾患が公費検査の対象となっております。
先天代謝異常等検査(20疾患)
アミノ酸代謝異常
- フェニルケトン尿症
- ホモシスチン尿症
- メープルシロップ尿症
- シトルリン血症Ⅰ型
- アルギニノコハク酸尿症
有機酸代謝異常
- プロピオン酸血症
- メチルマロン酸血症
- イソ吉草酸血症
- メチルクロトニルグリシン尿症
- 3-ヒドロキシ-3-メチルグルタル酸(HMG)血症
- 複合カルボキシラーゼ欠損症
- グルタル酸血症Ⅰ型
脂肪酸代謝異常
- 中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD欠損症)
- 極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(VLCAD欠損症)
- 三頭酵素欠損症(TFP欠損症)
- カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1欠損症(CPT1欠損症)
- カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ2欠損症(CPT2欠損症)
内分泌疾患
- 先天性甲状腺機能低下症
- 先天性副腎過形成症
糖質代謝異常
- ガラクトース血症
拡大スクリーニングについて
ライソゾーム病(LSD)について
私たちの体の中では、細胞が様々な働きをし、生きていくために必要なエネルギーや成分などを日々つくりだしています。その細胞の中にあるライソゾームという小器官には数多くの分解酵素があり、細胞内でいらなくなったタンパク質や脂肪、糖などを分解して排出しています。
「ライソゾーム病」とは、この分解酵素のひとつが先天的に欠損又は働きが低いため十分に分解できず、全身の様々な臓器に蓄積していろいろな症状を引き起こす疾患です。ライソゾーム病には、現在までに約60種の病気が知られており、当社で行う拡大スクリーニング検査では以下の5つの疾患について検査を実施しています。
当社で検査のできるライソゾーム病は、ファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病、ムコ多糖症Ⅰ型、ムコ多糖症Ⅱ型の5疾患です。下記の表のように、それぞれ原因となる分解酵素、蓄積物質、蓄積場所が異なり様々な症状を引き起こします。
ライソゾーム病の原因
疾患名 | 関係する酵素 (先天的に無い又は働きが低い) |
蓄積される物質 | 蓄積場所 |
---|---|---|---|
ファブリー病 | アルファ‐ガラクトシダーゼ | グロボトリアオシルセラミド | 全身のいろいろな臓器の細胞 |
ポンペ病 | 酸性アルファ‐グルコシダーゼ | グリコーゲン | 全身のいろいろな臓器の細胞 |
ゴーシェ病 | グルコセレブロシダーゼ | グルコセレブロシド | 肝臓、脾臓、骨髄 |
ムコ多糖症Ⅰ型 | アルファ-L-イズロニダーゼ | グリコサミノグリカン | 骨、筋肉、内臓などの組織 |
ムコ多糖症Ⅱ型 | イズロン酸-2-スルファターゼ | グリコサミノグリカン | 骨、筋肉、内臓などの組織 |
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
重症複合免疫不全症(SCID)について
重症複合免疫不全症(SCID)は体の免疫を支えている重要な細胞であるT細胞が、生まれつきほとんど存在せず、体内に異物が侵入してきたときに抗体をつくるB細胞も機能しなくなることで感染症を繰り返してしまう病気です。
免疫不全症の中で最も重いタイプとされ、赤ちゃんがSCIDであると知らずにロタウイルスワクチンやBCGワクチンなどの生ワクチンを接種してしまうと、命にかかわる重篤な副反応を引き起こす可能性があります。
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
脊髄性筋萎縮症(SMA)について
脊髄性筋委縮症は、脊髄の運動神経細胞が変性又は消失することで起こる筋萎縮症です。
進行性の筋力低下が特徴で重症型の場合、乳児期に運動発達がとまり、呼吸を行うのに必要な筋肉が動かせなくなることで呼吸ができなくなるなどの症状を引き起こします。適切な時期に治療を行わなければ、最重症型の場合では1歳まで生存が難しい病気です。
詳細はこちら
主な症状 |
|
---|---|
全身に表れやすい症状 |
|
具体的な症状 |
|
Q&A
Q1:先天代謝異常等検査(公費検査)と拡大スクリーニング検査の違いは何ですか?
A
先天代謝異常等検査(公費検査)は、全国一律で公費で受けられる検査(対象20疾患)のことで、検査は無償で受けることが可能です。これは厚生労働省の指導の下、各自治体が主体となって行っている公的事業であり、日本で生まれた全ての赤ちゃんが検査を受けることができます。これにより、早期発見・早期治療しないと障害が残ったり、最悪の場合亡くなられたりする可能性のある先天的な病気を見つけることができます。
拡大スクリーニング検査は、この新生児スクリーニング検査に含まれてはいない先天的な病気を見つける検査のことで、受けるかどうかは保護者が任意で選択できます。費用は有料となります。
Q2:拡大スクリーニング検査の目的は何ですか?
A
先天代謝異常等検査(公費検査)に含まれない先天的な難病を早期に発見するための検査です。早く見つけて治療を行うことで、救命および成長の遅れや発育障害などを最小限にすることを目的に行われています。
Q3:拡大スクリーニング検査の費用はかかりますか?
A
有料で検査を受けることができます。検査を受けるか受けないかは保護者が選択できます。
検査費用の詳細は、出産予定の産科医療機関へお問い合わせください。
Q4:拡大スクリーニング検査は必ず受けなければいけないのですか?
A
検査は強制ではありません。
検査対象疾患は新生児期での検査を行わない場合、発症前での診断あるいは発症後早期での診断が難しいケースがあるといわれています。
また、病気が見つかった場合、生後1~2か月以内での治療開始が必要となったり、発症後診断に数年以上かかる疾患もあります。全ての対象疾患で共通していることは、高い治療効果を得るためには早期診断、早期治療が最も重要だということです。ぜひ、検査を受けられることをご検討ください。
Q5:検査の結果、再検査といわれました。どうしたらいいですか?
A
まずは産科医療機関の案内に従って再度採血を受けられてください。
再検査(再採血)は病気の疑いもありますが、検体の状態が良くなかったため正しい検査結果が得られず、確実に正常と判断ができない場合などもあります。
Q6:検査の結果、精密検査といわれました。どうしたらいいですか?
A
精密検査を早めに受診してください。
「精密検査=患者」ではなく、精密検査の結果病気ではないと判断される場合もあります。
採血を行った産科医療機関にて精密検査や治療のできる医療機関をご紹介します。
大切な赤ちゃんを守るため、万が一病気が発見されても、速やかに専門的な治療が受けられるように、精密検査医療機関、専門の医師、ならびに検査施設が連携をとって支援する体制が整っています。
Q7:採血はどのようにされるのでしょうか?
A
哺乳後2時間前後、沐浴後に赤ちゃんのかかとの側面から少量の血液を、専用のろ紙へ滴下し採取することをお勧めしています。
Q8:拡大スクリーニング検査は哺乳の有無によって結果に影響がありますか?
A
当社で行っている拡大スクリーニング検査項目(LSD、SCID、SMA)については、哺乳による検査結果への影響はありません。
※先天代謝異常等検査(公費検査)では哺乳の有無で検査結果に影響が出る疾患があります。